※本記事は【2017年】当時の内容に基づいており、現在の出題傾向とは異なる可能性があります。

この記事は、教育現場における出題の質や、検証のあり方について考察するための記録です。
未来の受検生にとって、公平で正確な試験が実施されるよう、引き続き注視してまいります。

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【2017年度】都立中高一貫校・適性検査Ⅱの出題を検証

2017年度(平成29年度)に実施された都立中高一貫校の適性検査Ⅱにおいて、図形と数の関係性に関する興味深い問題が出題されました。しかし、その問い方や解答例に、数学的・教育的な観点から見て違和感を覚える点がいくつかあります。

今回は、大問1・問題3の出題と解答例を検証しながら、「本当に評価すべき力」とは何かを考えていきます。

■ 大問1・問題3の概要

並べたフロアマットの数と「見かけ上の辺の数」の関係を、「上向きの正三角形」と「下向きの正三角形」という言葉を使って説明しなさい。
また、その関係を使って10段目までならべたときの「見かけ上の辺の数」を式を書いて求めなさい。

フロアマットが三角形の形をしており、上向き・下向きに交互に配置されている様子が図で与えられています。

■ 公表された解答例

〔説明〕
「下向きの正三角形」の辺は、すべて「上向きの正三角形」の辺と重なっているので、「見かけ上の辺の数」は、並べたフロアマットの数から「下向きの三角形」の数を引いた「上向きの正三角形」の数の3倍になっている。

〔式〕
100-45=55
55×3=165

■ 素材は良問、問い方に難あり

この問題は一見すると、私立中学入試で頻出する「図形と数の規則性」に近い内容で、数学的素材としては優れています。
しかし、「説明に使う言葉」として「上向きの三角形」「下向きの正三角形」を明示的に指示したことで、受検生にとっては戸惑いを誘う要素となりました。

■ 数学的な構造を整理する

段数を N とすると、次の関係が成り立ちます:

  • フロアマットの総数(A):N × N(平方数)
  • 上向き三角形の数(B):N(N+1)/2(三角数)
  • 下向き三角形の数(C):N(N−1)/2
  • 見かけ上の辺の数(D):B × 3(=3×N(N+1)/2)

このように、「上向きの正三角形」だけで見かけ上の辺の数は求められます。

■ 「下向きの正三角形」という言葉の意味は?

問題文では、「上向き」と「下向き」の正三角形という言葉を必ず使って説明するように指示されています。

しかし実際には、見かけ上の辺の数は上向き三角形の数だけを数えれば十分に求まるため、「下向きの正三角形」の導入は本質的には不要です。

このことに気づいた受検生の中には、次のように感じた子もいたのではないでしょうか:

  • 「下向きの三角形って、何のために出てきたの?」
  • 「式は上向きの数だけで出せるのに、無理やり入れさせられてる…?」

言い換えれば、この言葉の使用を強制することで、「本来のシンプルな思考の流れ」が分断されてしまったのです。

■ 解答例の構成と違和感

都教委の解答例では、次のような式の流れが提示されています:

100(フロアマットの数)-45(下向きの三角形)=55(上向き)
→ 55 × 3 = 165(見かけ上の辺の数)

この手順は、数学的には正しいですが、なぜ遠回りをしてまで「下向き」経由で説明させるのか、疑問が残ります。

表からすでに「上向き三角形の数=55」であることが読み取れるならば、素直に 55 × 3 = 165 とすべきです。

■ 本来あるべき出題と解答の形

仮に、受検生の「思考力・表現力・判断力」を適切に測りたいのであれば、以下のような問い方のほうが自然でしょう:

段数をNとしたとき、上向きの正三角形の数を三角数として表し、その3倍で「見かけ上の辺の数」が求まる理由を説明しなさい。また、10段目までの場合の値を式で求めなさい。

模範解答:
各段に1, 2, 3, …, N個と上向きの正三角形が並ぶので、全体で N(N+1)/2 個。
その1つ1つに3辺があるため、見かけ上の辺の数は 3 × N(N+1)/2。
N=10のとき、55 × 3 = 165

■ 「複数の情報を統合する力」の評価のあり方

都立中等教育学校の適性検査は、「資料や図から必要な情報を読み取り、それを組み合わせて考える力(統合力)」を評価する目的があります。

しかし今回のように、「本質的に必要ではない情報(=下向きの三角形)」を強制的に使わせる形式は、かえって表現力や論理構成の自由度を奪いかねません。

■ まとめ:図と数の本質を捉える力を

今回の問題は、素材としては「図形と数列の関係」を捉える良質な題材です。
しかし、「下向きの正三角形」という語を強制的に用いさせたことが、かえって受検生の思考を不自然にし、本来評価したい力(説明力・構造理解)から離れてしまった可能性があります。

数式ではなく、構造そのものに気づき、自然な言葉で説明できる力──それこそが、適性検査で本当に測るべき力ではないでしょうか。