2026年2月21日に実施された都立高校一般入試で、理科・大問6(浮力分野)に出題ミスがあり、受験者全員に4点が加点されました。

受験生にとっては大きな出来事です。
しかしここでは、感情論ではなく、科学的に整理したいと思います。

そして同時に、ちょうど10年前の「天体問題」を思い出さずにはいられません。

■ 今回の浮力問題で何が起きたのか

大問6は、ばねばかり・おもり・水槽を使った実験問題でした。
出題分野である「浮力」は、中学3年で学ぶ内容です。

しかし都立入試では、大問として扱われることは多くありません。
基礎事項として確認されることはあっても、発展的な実験設定で問われる機会は限られています。

その意味では、今回の問題はやや挑戦的な構成でした。

■ 浮力の基本原理

物体は、押しのけた水と同体積の水の重さ分だけ軽くなる。
(アルキメデスの原理)

水中では、必ず次の関係が成立します。

重力 = 張力(ばねばかりの値)+ 浮力

■ どこに矛盾があったのか

ところが今回、<実験2>の本文中にあたえられた「おもりの体積」の値に誤りがあったため、
<結果2>のデータと、そこから理論上計算されるはずの「浮力」と、一致しない設定になっていました。
つまり、数値条件が物理法則と一致しない状態になっていたのです。

■ 今回の問題の特殊性

本問をさらに特徴づけるのは、
誤った体積値を直接用いなくても、<結果2>のデータから小問が解けてしまう構造であった
という点です。
● 前提として示された数値には矛盾がある
● しかし設問自体の正答は求めることができる

このため、問題全体は成立しているように見え、表面的には整合しているかのような印象を与える設計になっていました。

■ 前提条件の構造上の問題

浮力が押しのけた水の重さに等しいことは、中学理科で扱われる内容です。
ただし、その量を体積値から算出するためには、水の密度および重力換算に関する条件が問題全体の前提として明示されている必要があります。

本問では、これらの条件が統一的に提示されていませんでした。
さらに体積値自体に誤りがあったため、原理に基づいて体積値から浮力を整合的に算出することはできません。

体積値から浮力を算出するには、次の前提が必要です。

● 水1cm³の質量を1gとする
● 質量100gに働く重力を1Nとする

しかし、前者は明示されておらず、後者は[問1]のただし書きにのみ示されています。
これらを[問2]でも前提とするのであれば、本来はリード文で統一的に示されている必要があります。

以上の点から、体積値から浮力を直接算出する解法は設計上想定されていなかったと考えるのが妥当です。
本問は、<結果2>に示された力のつり合い関係を処理させる設計であったと整理できます。

■ なぜ気付きにくかったのか

本問は、誤った体積値を用いなくても解答が成立する構造を持っていました。
そのため、体積値と物理法則との整合性を基礎から検証する必要性が、解答過程の中で表面化しにくい状態にありました。

入試問題においては、与えられた条件は正しい前提として扱うのが原則です。
提示された数値や設定の妥当性そのものを疑うことは、通常の受験場面では想定されていません。

結果として、本件は論理的な矛盾を含みながらも、解答手続きの内部では違和感が顕在化しにくい問題であったと言えます。

■ 一律加点の影響

今回の浮力問題は難度が高く、原理の理解がなければ得点できない設計でした。
本来であれば、理科の実力差が得点差として表れる問題だったはずです。
一律加点は救済措置ではありますが、同時に本来生じていたはずの得点差を圧縮する結果にもなりました。

■ 10年前の天体問題

10年前にも、都立高校理科で出題の整合性に疑問が生じた天体問題がありました。

あの問題は、科学的に見れば条件設定に無理があり、
問題文の条件通りに科学的に考察すると、模範解答とは異なる答えに到達する「正答の妥当性」が揺らいだ問題でした。

● 複数正解扱い
● あるいは一律加点

といった措置が妥当なケースでした。

しかしその時は、すでに合格発表が確定していました。影響が大きすぎるためか、出題ミスは認められず、そのまま処理されました。

当塾でも当時、科学的根拠を整理して記事を書き、都教委(教育庁)に直接問い合わせも行いましたが、修正には至りませんでした。

(参考:当塾の当時の記事)
【2016年】平成28年度都立高校入試(理科)の出題ミスに関して
【検証】平成28年度 都立高校入試 理科・金星の問題|なぜ「ウ」が正解なのか?計算で読み解く天文問題
【2016年】平成28年度都立高校入試(理科)の出題ミスに関して(続報)

今回との決定的な違いは、合否確定前に対応できたかどうかという点です。
そしてもう一つ重要なのは、問題の性質そのものの違いです。
2026年の浮力問題は、前提条件に矛盾はあったものの、設問の正答は、ただ1つに定まりました。
一方、10年前の天体問題は、科学的に丁寧に考察すればするほど、正答が揺らぎ得る構造でした。
その意味では、影響の質という点において、より根幹に関わる問題であったと言えるでしょう。

■ なぜ繰り返されるのか

都立理科は近年、

● 文章量が多い
● 実験設定が複雑
● 思考力重視

という傾向が強まっています。これは望ましい方向です。

ただしその分、

● 数値設定
● 単位
● 図との整合性

のチェックは、以前より厳密でなければなりません。

理科は「解釈」ではなく「原理」で決まる科目です。原理と矛盾すれば、それは問題設定の誤りです。

■ 受験生にとって最も大切なこと

今回も、10年前も、受験生に責任はありません。入試では、問題文は正しい前提で解くのが当然です。

それでも、教育的に重要なのは次の視点です。

● 力のつり合いを図で確認できるか
● 数値の妥当性を検証できるか
● 原理を言葉で説明できるか

浮力を「公式」として覚えるだけでは、矛盾には気付きにくい。
しかし、

● 押しのけた体積とは何か?
● 本当に力はつり合っているか?

と原理に戻って考える力は、確実に実力になります。

理科も数学も同じです。
構造を理解している生徒は、最後に必ず伸びます。

■ 入試に求められるもの

入試は人生を左右する重要な場面です。だからこそ、

● 科学的整合性
● 透明性
● 再発防止の仕組み

が求められます。

10年前の天体問題、そして今回の浮力問題。風化しても、記録は残ります。
同じことを繰り返さないために、科学的検証の姿勢が徹底されることを願います。

■ まとめ

今回の出題ミスは残念でした。しかし、

● 原理理解の重要性
● 思考力型問題への備え
● 数値を検証する科学的姿勢

を改めて考える機会でもあります。

都立高校受験は、今後も続きます。外部環境に左右されず、原理から考える力を磨き続ける。
それが、合格だけでなく、その先の学力を支えます。