現在、文部科学省では、「算数」と「数学」の名称を統一する議論が進められています。

これは、小・中・高12年間の学びを地続きにするという、非常に重要な理念に基づくものです。

しかし、現場に目を向けると――
その理念と整合しない「論理の断絶」が存在していることも事実です。

本記事では、実際に教科書会社と行ったやり取りをもとに、算数教育の中で起きている一つの問題を整理します。

✨探究の視点:
「“算数”と“数学”は、本当に別の教科なのだろうか?」
「それとも、名前だけが違う“同じ学び”なのだろうか?」

■ なぜ「正しいのにバツ」になる?小4立体「垂直」問題の違和感

小学4年生の立体(直方体)の学習で、次のような誤解を招きやすい問題があります。

問題:
「直方体(ABCD-EFGH)で、辺ABに垂直な辺をすべて見つけましょう」

直方体ABCD-EFGHで辺ABに垂直な辺をすべて求める算数の問題図

・垂直の定義とは何か

数学において、「垂直」とは、2つの直線のなす角が90°であることを指します。

この定義に従えば、

● 交わっている場合だけでなく

● 交わっていない場合(ねじれの位置)でも

角度が90°であれば、垂直と考えられます。

・ねじれの位置と角度 ― 見方を変えることで統一される関係

直方体で辺ABに垂直な辺を示した図。交わっている場合(直交)と交わっていない場合(ねじれの位置)の違いを説明「ねじれの位置」とは、同じ平面上にないため交わらない2直線の関係を指します。

このような直線どうしは、そのままでは交わらないため、角度を直接測ることはできません。

そこで数学では、一方の直線を平行移動させて、もう一方と交わる位置にそろえて考えます。

平行移動では直線の向きは変わらないため、このときにできる角度を、もとの2直線のなす角とします。

この方法を用いることで、空間内の直線どうしの関係も、平面と同じように統一して理解できるようになります。

このように、「そのままでは扱えないものを、見方を変えて扱えるようにする」というのは、数学の大切な考え方の一つです。

なお、「ねじれの位置」という関係自体は中学1年生で学びますが、
その2直線のなす角については高校数学で扱う内容です。

算数・数学は、このように同じ対象を学年に応じて少しずつ拡張していく構造になっています。

✨探究の視点:
交わらないものどうしの「角度」は、どのように考えればよいのでしょうか?

・ねじれの位置を含めると何本になるのか

したがって、数学的に考えると、

●交わっている場合の垂直(直交)
→ AD・AE・BC・BF の4本

●交わっていない場合の垂直(ねじれの位置の垂直)
→ EH・FG・DH・CG の4本

👉 合計8本となります。

つまり、定義に基づいて考えれば、答えは8本になるはずです。

一方、小学校算数の指導にしたがうと、

👉 「交わっている辺のみ(4本)」が正解

となります。

直方体で辺ABに垂直な辺のうち、交わっている場合の垂直(直交)の位置にある4本を示した図直方体で辺ABに垂直な辺のうち、ねじれの位置にある4本を示した図

これは入試問題ではありませんが、
出題の考え方という点では、入試問題と同じ構造を持っています。

■ 「垂直」とは何か?本来同一であるはずの定義と、算数で生じるズレ

・学習指導要領に基づく指導上の意図

教科書の記述は、学習指導要領に基づき、
● 小学校では、空間図形では交わらない直線の角度は扱わない
● 発達段階に応じて内容を限定する

という考え方のもとで整理されています。

これは教育的配慮として理解できます。
小学生にいきなり空間内のすべての位置関係を厳密に扱わせるのは負担が大きい、という考え方自体は自然です。

・「扱わない」とは何を意味するのか

しかしここで重要なのは、「扱わない」とは何を意味するのかという点です。

本来、「扱わない」とは、

● その内容に児童が踏み込まなくて済むように
● 問題文や発問を配慮すること

を意味するはずです。

ところが今回の問題は、

「垂直な辺をすべて見つけましょう」

と問われています。

この「すべて」という言葉は、空間内にあるすべての辺を対象とすると解釈するのが自然です。

つまりこの問題では、ねじれの位置にある辺についても、垂直かどうかを判断する必要が生じるのです。

ここに、決定的なズレがあります。

👉 「扱わない」はずの内容が、問題文によって扱われてしまっている

・「扱わない」と「垂直ではない」は別問題

さらにもう一つ、本質的な問題があります。

「扱わない」ことと、「垂直ではない」とすることは、全く別であるという点です。

「扱わない」は学習範囲の問題です。
一方、「垂直ではない」は定義の問題です。

この二つは、本来混同されるべきではありません。

にもかかわらず、その教科書会社の小4算数の指導書には、

「(空間図形において)小学校算数では、直交している場合のみを垂直であるといい、ねじれの位置にあるものは含めない」

と指導するように書かれています。

この表現では、本来同一であるはずの垂直の定義が、あたかも異なるものとして受け取られてしまうおそれがあります。

本来であれば、

「直交している場合の垂直のみを扱い、ねじれの位置にある垂直は扱わない」

といった形で、学習範囲の限定として表現することが適切でしょう。

これは単なる指導上の配慮にとどまらず、
定義の理解に関わる問題として、慎重に扱う必要があります。

✨探究の視点:
「“扱わない”とは、存在しないことになるのだろうか?」
「学習しないことと、正しくないことは同じなのだろうか?」

■ 平面と空間で何が変わるのか?拡張される数学的な考え方

・平面では許され、空間ではそのまま扱われない構造

小4算数では、平面図形において、

● 交わっている垂直
● 線分を延長することで交わる垂直

の両方を扱います。

つまり、平面においては、「今は交わっていなくても、延長すれば交わる」関係を認めているのです。

一方で、空間図形になると、学習指導要領に基づき、教科書では交わっているもののみを垂直として扱うよう整理されています。

これは、空間内で交わらない直線の角度を扱わないという、学習段階上の配慮によるものです。

・延長と平行移動 ― 次元の拡張という視点

平面で「線分(点)を延長する」という操作は、

空間では「線分の位置をずらして考える(線分を平行移動する)」ことに対応します。

点(0次元) → 直線(1次元) → 平面(2次元) → 空間(3次元)

と対象を拡張していく、数学の基本的な考え方の一部です。

この視点に立てば、ねじれの位置にある直線についても、
平面での「延長」の考え方を空間に拡張したものとして理解することができます。

算数・数学においては、このようにある考え方を段階的に拡張していくことが、理解の土台となります。

こうした見方を重視して学習している生徒は、
教えていない内容であっても、自ら「ねじれの位置の垂直」に気づくことがあります。

それは誤りではなく、むしろ数学的に自然な思考のあらわれと言えるでしょう。

■ 教育的提言

だからこそ、ねじれの位置における垂直については、
一律に「不正解」とするのではなく、扱い方には慎重さが求められます。

本来は、児童が混乱しないよう、
問題文の段階で触れない・扱わない形に整理することが望ましいと考えられます。

■ 小4算数「垂直な辺」の問題はなぜ混乱するのか

・問題文をそのまま読めば、すべての辺が対象になる

「すべて見つけましょう」と問われた以上、対象は交わる辺に限定されません。

空間内に存在するすべての辺について、垂直かどうかを検討する必要があります。

したがって、交わっていない辺(ねじれの位置)も判断の対象となります。

・扱わない内容が、問題文によって現れてしまっている

本来、ねじれの位置の垂直を扱わないのであれば、その内容に踏み込まなくてよいように問題文を設計する必要があります。

しかし今回の問題では、「すべて」という表現によって、ねじれの位置にある辺についても検討せざるをえない構造になっています。

つまり、これは単なる「教え方の違い」ではなく、条件の読み取りと定義の整合性に関わる問題なのです。

■ 結論

この問題文は、「すべて」という表現によって思考の対象を広げているにもかかわらず、

実際の解答では対象を限定しているという点で、
誤解を招きやすい構造を持っています。

そのため、学習段階への配慮として内容を限定するのであれば、

問題文の表現自体を調整することが必要と考えられます。

■ 実際に起きている「正しいのに不正解」の事例

・お問い合わせいただいたケース

実際に、この件で保護者の方から、このようなご相談をいただいたことがあります。

カラーテストで満点を逃してしまったお子様がいらっしゃいました。

それまでずっと満点を取っていたお子様だったため、
本人にとっても非常に悔しい結果だったそうです。

保護者の方から、「これはおかしいのではないか」というお問い合わせをいただきました。

せめて、△なり補足なりをしてくださっていればよかったのですが、
指導書には「直交している場合のみを垂直である」と書いてあることもあり、そのような対応もなされなかったようです。

・私自身の「北極星」の経験

実は、私自身にも似た経験があります。

小学生の頃、「北極星は(動く)(動かない)のどちらかを選びなさい」という問題で、
私は「動く」のほうに〇をつけました。

しかし、カラーテストではバツとされてしまいました。

これは、「ほぼ動かない」という説明と、
「動くか・動かないか」という問いの形式が一致していなかったことによるものです。

「ほぼ動かない」という説明から、「少しは動く」と考えることは、決して不自然なことではありません。
そして、少しでも動くのであれば、「動かない」と断定することにも違和感がありました。

そこで、自宅の望遠鏡を使って長時間露出の写真を撮り、
北極星もわずかに動いている証拠を持って、学校の先生に伝えました。

しかし、テストの結果は変わりませんでした。

「なぜ、証拠もある事実が否定されてしまうのだろう」

「正しさとは、いったい何によって決まるのだろう」

このような経験は、決して特別なものではありません。
むしろ、論理的に考えようとする子ほど、この違和感にぶつかりやすいのです。

この違和感は、今回の「垂直」の問題にも、そのまま当てはまります。

■ なぜ起きるのか?算数と数学の違いが生む構造的問題

・「算数だから」で止まってしまう議論

これまで、数学的に見ると整理が必要な内容であっても、「算数と数学は異なる」という説明によって、十分に検討されないまま扱われてきた側面があります。

本来、定義や論理に関わる問題は、学年に関係なく一貫して扱われるべきものです。

・子どもの学習観にも影響する

しかし現場では、

● 「算数だから」
● 「今はそこまで扱わないから」

という理由で、その整合性が問われないままになる場面も見受けられます。

こうした状況は、結果として
「条件や定義よりも、答え方を優先する」学習観
につながりかねません。

それは、論理的に考えようとする子どもほど、かえって戸惑いや不信感を抱きやすい構造でもあります。

■ 学習指導要領から見る算数と数学の関係

・算数は数学の出発点である

文部科学省の学習指導要領解説では、

算数においても数学の用語・記号を用い、その学年以降の学習で能力を伸ばしていく

とされています。

つまり、算数は数学と切り離された別物ではなく、数学へと連続していく学びの出発点だということです。

■ 解決策:「垂直に交わる辺」と書けばよい理由

・必要なのは表現を明確にすること

この問題は、実は難しい話ではありません。

表現を明確にするだけでよいのです。
小学校では「直交」という用語はまだ扱いませんので、

「垂直な辺」ではなく、
「垂直に交わる辺」
と書けばよいのです。

これだけで、学習段階への配慮と数学的な一貫性の両方を守ることができます。

・表記の見直しを訴え続けてきた理由

ガリレオ理数進学塾では、2010年の開校以来、この表記の見直しを教科書会社に訴えてきました。
修正を受け入れてくださった教科書会社もありますが、いまなお改めていただけていない会社も存在します。

その理由の一つとして、「算数と数学は違う」という説明がありました。

しかし、学びが連続している以上、この説明だけで定義や論理の違いを正当化することには、慎重であるべきではないでしょうか。

■ 算数と数学の名称統一で何が変わるのか

・見直されるべき3つの視点

今回の名称統一の議論は、

● 定義の一貫性
● 論理の整合性
● 学びの連続性

を見直す重要な機会です。

・「数学としてどうか」で見直す時代へ

これまで「算数だから」で止まっていた議論が、
「数学としてどうか」
という視点で再検討される。

そのような流れになることを期待しています。

✨探究の視点:
「学びはどこでつながり、どこで分かれてしまうのだろう?」
「正しさとは何か? 決められた答えなのか、それとも定義から導かれるものなのか?」

■ ガリレオ理数進学塾の指導方針|算数を数学として理解する力

・大切にしている3つの姿勢

当塾では、

● 定義をあいまいにしない
● 論理の整合性を重視する
● 「なぜそうなるのか」を大切にする

という姿勢で、算数を“数学として理解する力”を育てています。

・その場しのぎではない数学力へ

また、

● 定義をあいまいにしない指導
● 論理の整合性を重視した解き方
● 「なぜそうなるのか」を言葉で説明できる力

を大切にしています。

その場しのぎの解き方ではなく、高校・大学へとつながる本物の数学力を育てていきます。

本来、算数と数学は断絶するものではなく、同じ考え方を段階的に広げていく学びです。

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■ まとめ|算数と数学は本来つながっている

● 算数と数学は本来つながっている
● 問題文の「すべて」は思考の範囲を広げる
● 現場では条件と指導のズレが起きている
● 表現の工夫でそのズレは解消できる

小4の立体問題は、すでに数学の入口です。

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